今回は、私が大切にしている「根付(ねつけ)」を紹介します。
蓮の葉を傘代わりに頭にすっぽりとかぶり、切り株にちょこんと腰掛けてくつろぐ蛙。
このとぼけた表情が、いいんです(笑)。
江戸時代末期から明治にかけて活躍した根付師「光山」の作品です。
小さな木彫りの中に職人の技術と遊び心が詰まっています。
そんな根付の魅力を紹介します。
根付とは?
根付とは、江戸時代に発達した日本独自の装飾工芸品です。
印籠や巾着、煙草入れなどの「提げ物(さげもの)」を、帯から吊るして持ち歩くための留め具です。
簡単にいえば、落下防止のストッパーですね。
着物の唯一の欠点といえば、ポケットがないこと。
そこで江戸時代の人々は、小物を入れたポシェットのような提げ物を帯に吊るして持ち歩きました。
その提げ物がずり落ちないように工夫されたのが根付です。
今でいえば、携帯電話のストラップのようなものでしょうか。

ただし、単なる実用品ではありません。
初期には木の根などを利用した素朴なものもありましたが、やがて動物や人物、植物、日常生活の一場面などを精巧に彫刻したものが作られるようになりました。
江戸時代には喫煙の習慣が広まり、煙草入れとともに根付を携帯することも一般的になっていきました。
かんざしと並び、実用性と装飾性を兼ね備えた、日本人に愛された工芸品なのです。
私の根付を紹介します
今回紹介するのは、蓮の葉を傘代わりにかぶった蛙の根付です。名前はまだありません(笑)
蓮の葉を頭にかぶり、切り株にちょこんと座るカエル。よく見ると、行儀良く足を重ねて、とぼけた顔で座っています。
右手でしっかり蓮の茎(傘の柄)を握り、左手は蓮の葉(傘)を押さえています。その割には傘の役目を果たしていないですね。てかこれだとズブ濡れです。
この傘のかぶり方だと、カッパのようにも見えてしまいます。もしかしたらカッパのモノマネ?
憎めません。
出っ張ったお腹は満腹だからなのか?体型なのか?人ごととは思えません。
目が合うと「かわいいヤツだなぁ」と、つい微笑んでしまいます。
ふと目に入るたびに、
「あわてない、あわてない、一休み、一休み」って言われています。一休さんかっ!(笑)


細部に宿る職人の技
使い込まれたような褐色の艶も、この根付の魅力です。
蛙の表情は写実的でありながら、どこかユーモラス。
写実性とデフォルメをうまく組み合わせた造形になっています。
背面を見ると、蓮の葉の葉脈まで丁寧に彫り込まれています。
蛙の皮膚の細かな凹凸も表現されており、小さな作品ながら手を抜いていないことが伝わってきます。
つぶらな瞳は「玉眼象嵌(ぎょくがんぞうがん)」といって、水牛の角や黒檀などの黒い素材を、小さな円錐形に削り出し、目に開けた穴にピタリとはめ込む技術です。

根付の特徴
根付には「紐通し(ひもとおし)の穴」が必ずあります。
大きい穴と小さい穴があり、結び目を大きな穴の中に隠す仕様です。
また、帯に通す留具としてどの面を見てもしっかりと彫られていないといけないそうです。
底面にも蛙のかわいい足の彫刻が施されています。
そして、着物や帯にひっかからないように、着脱に適した出っ張りが少なく丸みを帯びたほうが良いとされます。
例えば動物を彫る際には、足を伸ばすのではなく、できるだけ丸みの中に収まるように四肢を表現します。
これが置物との違いです。
この根付には「象嵌銘(ぞうがんめい)」や「嵌め込み銘」と呼ばれる、技法が使われています。
鹿の角などを埋め込み(直径4mm!)、銘を掘ってます。
手間がかかってます。

蓮の葉を傘に見立てる遊び心
蓮の葉は水を弾く性質があり、古くから雨傘に見立てられることがあります。
この根付も、蓮の葉を傘代わりにして蛙が雨宿りをしているようなデザインです。
蛙に蓮の葉をかぶせる。
ただそれだけなのに、こんなにも愛らしく、味わい深い作品になるのですから面白いものです。
実用品でありながら、見る人を楽しませる工夫がある。
まさに、江戸の職人らしい粋な遊び心を感じさせる作品です。
「蓮と蛙」の縁起のよい組み合わせ
この根付は、かわいらしいだけではありません。
蓮と蛙という組み合わせから、縁起物としての意味を想像することもできます。
子孫繁栄や豊かさの象徴
蓮は多くの種をつける植物であり、子孫繁栄や豊かさを連想させます。
一方、蛙も多くの卵を産む生き物です。
こうした特徴から、両者を子孫繁栄や家運隆盛に結びつけて解釈することもできます。
ただし、この組み合わせに決まった意味があるとは限りません。作品ごとの意匠や、持ち主の思いによっても意味合いは変わるのでしょう。
「無事かえる」「お金がかえる」
蛙といえば、日本では昔から語呂合わせの縁起物としても親しまれてきました。
- 無事かえる
- お金がかえる
- 若がえる
旅に出るときに身につければ「無事に帰ってこられますように」。
お金を使うときには「また戻ってきますように」。
そんな願いを込めることもできそうです。
江戸時代の人も、こんな愛嬌のある蛙を眺めながら、ちょっとした願掛けをしていたのかもしれませんね。
遊び心のある職人が、せっせと蛙を彫り上げる
そして完成した根付を帯に吊るして出かける江戸の人がいた。
帯の上から、蓮の葉をかぶった蛙がちょこんと顔を出している。
使っていた人は、きっと遊び心のある粋な方だったのでしょう。
そんなことを想像していると、何百年も前の人々と根付を通してつながったような気持ちになります。
粋と洒落の心を重んじた ” 江戸派 ” の作品ですね。
骨董品の面白さは、古いものを手に入れることだけではありません。
その品物がどんな人に使われ、どんな暮らしの中にあったのかを想像できることにもあると思います。
海外でも愛される日本の工芸品
根付は海外にも熱心な愛好家やコレクターがいる工芸品です。
小さな作品の中に、彫刻技術、独創的な発想、ユーモア、そして日本独自の美意識が凝縮されています。
そのため、国内外で高く評価されている作品も数多くあります。
根付の世界を検索してみると、実にさまざまな作品が見つかります。
動物や人物、神様、妖怪、昔の暮らしの一場面まで、題材は実に多彩です。
「こんなものまで彫刻にするのか!」と驚くような作品もあり、眺めているだけでも飽きません。
もちろん、価格は作品の時代や作者、材質、保存状態などによって大きく異なります。
比較的手に取りやすいものもありますが、古い作品だから必ず安いというわけではありません。
また、年代や作者が不明なものについては、購入時に説明や状態をよく確認することも大切です。
私はこう使ってます
昨今、普段の生活では現金を使わなくなりましたが、趣味の御朱印巡りではお賽銭や御朱印の初穂料で常に小銭が必要なんです。
そこで、私は革の巾着袋を小銭入れとして持っています。
そしてその巾着袋に根付をつけています。
パイレーツの巾着袋に江戸の根付。このカエルならミスマッチもご愛嬌です。

根付をインテリアとして楽しむ
根付は、本来、提げ物を帯に吊るして持ち歩くためのものです。
しかし、現代ではインテリアの装飾品として楽しむのもよいと思います。
私も、巾着袋に付けるまではこの蛙の根付を机の片隅に置いていました。
大きな置物ではありませんが、小さいからこそ、ちょっとした空間に飾ることができます。
そして、何より表情がいい。
仕事をしていた頃なら、忙しい合間に目をやって、ほっと一息つくところでしょうか。
今は、のんびりとした年金生活のお供です。
まあ、蛙のほうも、蓮の葉をかぶって切り株に座り、ずいぶんのんびりしていますが(笑)。
根付は「手のひらの彫刻」ともいえる工芸品です。
小さなサイズの中に、作家の技術と創造性が凝縮されています。
まさに「手のひらに宿る江戸の粋」。
これからも、そんな小さな工芸品を眺めながら、作った人や使っていた人の暮らしに思いを巡らせていきたいと思います。
皆さんも、機会があれば根付の世界をのぞいてみてください。
きっと、お気に入りの一品に出会えるかもしれません。

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